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5. その他の因子の影響の検討

 

前章までで述べてきた環境因子以外に、腐食疲労に影響を及ぼす可能性のある因子についても、研究を行なった。その成果について、以下に説明する。

 

5.1 初期腐食因子の影響
腐食衰耗が発見された構造部材の、部材許容荷重の検討や信頼性評価に当たって、一般には、腐食経年による材料強度低下は無いものとして扱われる。この仮定を検証するため、建造後17年を経過したORE/OIL CARRIERから母材試験片(A級鋼)を採取して、静荷重試験及び疲労試験を実施した。試験結果より、降伏点、引張強さとも現行の規格値を上回る。しかし、疲労強度は、表面を平滑研磨すれば、非腐食材と同程度だが、腐食ピットを残したままの状態では、海水中の時間強度が1/2以下に低下することが判った。

 

5.2 湿潤硫化水素の影響
硫化水素の存在が及ぼす影響について検証するため、SS41鋼を対象に定負荷、腐食割れ試験を実施し、負荷応力の増加とともに、母材の耐力、引張強さ、延性とも著しく低下することか確認された。なお、疲労強度に関しては、サワー原油中のKA36及びKAS鋼の場合、比較的高応力レベルで、母材、溶接継手部ともに、大気中に比べて疲労き裂伝播速度が著しく加速されるとの研究結果も報告されている。

 

5.3 変動荷重因子の影響
船体のような大型溶接構造物では、応力集中部に、降伏点程度の引張残留応力が存在しており、作用荷重によっては、塑性変形を生じて、残留応力が緩和される。疲労寿命は荷重履歴の影響を受け、初期に大荷重が作用すれば長寿命になる傾向がある。安全余裕のある設計を行うには、残留応力の緩和影響を含まない疲労データが必要であり、そのため、最大応力を降伏点に一致させた変動応力疲労試験を実施した。その結果、等価応力範囲と等価繰返し数て整理すれば、変動応力と一定応力振幅に対するSN線図は一致すること、応力比=0の試験結果と比較して、大気中では疲労限が低くなるが、海水中では有意な差は見られないことか判った。

 

5.4 電気防食下における電位分布
通常バラストタンクには、防食塗装と併用して、犠牲陽極による電気防食が施されている。現在、経験的に行なわれている電気防食設計の信頼性を向上させ、合理的な設計を実現するためのツールとして、3次元境界要素法による電位分布解析の適用を検討した。解析例を図5.1に示す。

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図5.1タンクコーナーに塗膜剥離を生じた場合の電位分布

 

5.5 まとめ
上述の研究成果より、次の知見が得られた。
(1)経年によっても、鋼材そのものの強度特性は変わらないが、腐食ピットの存在が母材の疲労強度に影響を及ぼす。
(2)硫化水素の存在は、疲労強度を低下させる。
(3)海水中では、変動荷重下の疲労強度に及ぼす応力比の影響は、明瞭ではない。
(4)電気防食設計に、2次元境界要素法による電位分布解析が適用可能である。

 

 

 

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